会長挨拶

「HIV陽性の人も、陰性の人も、どちらかわからない人も、一緒に生きている」というリアリティを共有するためのキャンペーン「Living Together」を、私たちが始めたのは2002年のことです。これは、エイズ対策において、HIV陽性者へのケアとHIVの感染予防は車の両輪として必要であり、当事者の参加が重要であることを伝えるメッセージでもありました。

2012年7月、米食品医薬品局(FDA)は既存の抗HIV薬を、感染を防ぐための薬としても承認しました。予防効果を裏付ける研究は承認後にも発表され、日本国内でもPrEP(曝露前予防)に対する関心が、次第に高まっています。UNAIDS(国連合同エイズ計画)は、PrEPを予防の選択肢の一つとして位置づけるとともに、他の性感染症の予防が後退しないよう、情報を発信する必要性も指摘しています。PrEPをめぐる動きは世界中に広がっており、アジアでもトライアルを開始する国がでてきています。

日本の現実のなかでPrEPをどのように位置づけるかの検討には、個人がHIV検査を地域で安心して受けられることと、医師の見守りのもとで薬が処方される環境も必要です。さらに、こうした費用を誰に対して、どこまで負担するかを、様々な立場の人が参加し、積極的に議論する必要があります。

しかし国内では、HIV/エイズへの社会の関心はむしろ低下し、メディア等での報道も減っているのが現状です。多くの人がHIV/エイズに対しては今もなお、怖い病気のイメージを持っているのではないでしょうか。

こういった環境は、HIV陽性者が病気のことを周囲に伝えにくくしています。当事者や周囲の人は大きなストレスを抱え、またHIV検査を受けたことがない人にとっては、検査行動の妨げにもなっています。人権の尊重とケアへのアクセスを保障するという観点に加え、より効果的な予防対策の実現を目指す意味からも、HIV/エイズへのスティグマの解消が必要です。

本会議では、HIV/エイズを通じて映し出される社会の課題、就労問題、介護や精神保健領域へのケアの連続性といった課題を解決するために、医療従事者、研究者、行政、NGO/NPO関係者、HIV陽性者など、立場を超えて語り合いたいと願っています。「未来へつなぐケアと予防 Living Together」というテーマには、大きな転換期を迎えつつある今だからこそ、あらためて考え、共有しておくべき核心が含まれているものと信じます。皆様の積極的な参加をお待ちしています。


第31回日本エイズ学会学術集会・総会 会長:生島 嗣
(特定非営利活動法人 ぷれいす東京代表)